港区青山表参道にある税理士法人わかば
2015年10月18日
日税国際税務フォーラム
国際税務ニュースレター
2015年10月号
今回のテーマ:米国デラウェアLPSに係る最高裁判決
米国デラウェア州法に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップ(以下、「デラウェアLPS」)が日本の租税法上の外国法人に該当するか否かが争われた訴訟で、平成27年7月17日、最高裁判所は、デラウェアLPSが外国法人に該当すると判示しました。
具体的には、デラウェアLPSが行う中古不動産賃貸事業から生じた所得が、LPS自身に帰属するのか(法人課税)、LPSへの出資者に直接帰属するのか(パススルー課税)という点につき、「本件各不動産賃貸事業により生じた所得は、本件各LPSに帰属するものと認められ、本件出資者らの課税所得の範囲には含まれない」としました。
1 外国事業体の法人該当性に係る裁判例
外国事業体の法人該当性については、複数の訴訟において、次のように異なる基準が示された結果、判断が分かれていました。
デラウェアLPS | 大阪地裁(H22.12.17) 「法人」の属性具備 ⇒法人該当 | 大阪高裁(H25.4.25) 法人格(実質判断) ⇒法人該当 | 上告不受理 |
東京地裁(H23.7.19) 法人格+損益帰属主体性 ⇒法人該当せず | 東京高裁(H25.3.13) 法人格(実質判断) ⇒法人該当 | 上告不受理 | |
名古屋地裁(H23.12.14) 法人格+損益帰属主体性 ⇒法人該当せず | 名古屋高裁(H25.1.24) 法人格+損益帰属主体性 ⇒法人該当せず | 最高裁(H27.7.17) 法人格+権利義務帰属主体性 ⇒法人該当 | |
バミューダLPS | 東京地裁(H24.8.30) 法人格+損益帰属主体性 ⇒法人該当せず | 東京高裁(H26.2.5) 法人格+損益帰属主体性 ⇒法人該当せず | 上告不受理 |
ニューヨークLLC | さいたま地裁(H19.5.16) 法人格(実質判断) ⇒法人該当 | 東京高裁(H19.10.10) 法人格(実質判断) ⇒法人該当 | 上告不受理 |
・法人格付与基準:当該外国の設立準拠法によって法人格を付与する旨が規定されていると認められるか否か(デラウェアLPS東京高裁)
・損益帰属主体性基準:設立、組織、運営及び管理等の外国法の内容に着目して、経済的、実質的に見て、明らかに我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえるかどうか(デラウェアLPS東京高裁)
2 デラウェアLPS最高裁判決
米国LLCについては、我が国の税務上は外国法人として取り扱うことが国税庁ホームページにおいて公表され、裁判所の判決においても、この取扱いが定着しています。
しかしLPSについては、上述した裁判例のとおり、裁判所の判断が分かれていたため、最高裁の判断が待たれていたところでした。
この点、最高裁は名古屋高裁判決を破棄して、下記2つの基準により、デラウェアLPSの法人該当性を認めました。
① 法人格付与基準:設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否か
② 権利義務帰属主体性基準:当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否か。具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否か
上記①の基準は、これまでの下級審で用いられた法人格付与基準につき「疑義のない程度に明白」であることを付加したと考えることができます。しかし、上記②の基準については、これまでの損益帰属主体性基準とは異なる基準を示すものです。本判決が損益帰属主体性に言及せず、同基準を用いた名古屋高裁判決を破棄したことを考慮すると、今後は、法人格付与基準と権利義務帰属主体性基準を用いて、外国事業体の法人該当性を検討することが妥当であると考えます。
お見逃しなく!
外国事業体については、租税法上の法人該当性によって、我が国の課税関係が異なることとなるため、本判決で示された判断基準に基づき、デラウェアLPSその他の外国事業体を経由する投資スキームについて、見直し等が生じる可能性があります。
なお、米国LLCについては、上述のとおりその税務上の取扱いが国税庁のホームページ上に公表されていますが(https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/05/01.htm)、LPSその他の外国事業体に関する取扱いについては現時点で公表されていません。